脂質異常症(旧称:高脂血症)について

現在、「高脂血症」という病名は、より包括的な概念を示す**「脂質異常症(ししつ いじょうしょう)」**という名称で呼ばれることが一般的です。

★脂質異常症とは?

血液中に存在するコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)といった脂質の濃度が、正常とされる範囲から逸脱した状態を指します。いわば、血液中の脂肪分が過剰になり、流れが悪くドロドロになった状態とも言えます。

この病気の厄介な点は、初期にはほとんど自覚症状がないことです。しかし、異常な状態が長期間続くと、過剰な脂質が血管の壁にこびりつき、動脈硬化を加速させます。動脈硬化が進行すると、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞といった、生命を脅かす深刻な疾患の主たる原因となってしまうのです。

★診断と検査のステップ

脂質異常症の診断、および合併症の評価には、以下の検査が行われます。

  1. 診断に不可欠な検査:血液検査(採血) 血液中の主要な脂質成分(コレステロール、中性脂肪など)の値を測定し、診断を確定させるための基本となる検査です。
    • 検査時の注意点:
      • 正確な結果を得るため、原則として空腹時の採血が推奨されます。特に中性脂肪は食事の影響を強く受けるため、通常は10時間以上の絶食(水やお茶は可)後に実施します。
      • 食後の採血になった場合や中性脂肪の値が高い場合は、食事の影響を受けにくいNon-HDLコレステロールの値が重視されることもあります。
  2. 合併症と原因を探索する検査 脂質異常症の進行度合いや、他の病気が原因となっていないかを調べます。
    • 頸動脈超音波(エコー)検査: 首の頸動脈の血管壁の厚さ(IMT)を計測し、動脈硬化の進行具合やプラーク(脂質の塊)の形成を確認します。
    • 腹部超音波(エコー)検査: 肝臓への脂肪沈着(脂肪肝)の有無などをチェックし、原因や合併症を調べます。
    • 心電図・CT・MRI検査(CT・MRIは提携検査センターをご案内): 必要に応じ、心臓や脳に合併症(狭心症、心筋梗塞、脳梗塞など)がないか、その程度を詳細に評価します。
    • その他の血液検査: 脂質異常の原因となり得る疾患(糖尿病、甲状腺機能低下症、腎臓病など)の有無を同時に確認するため、血糖値や肝・腎機能なども併せて調べることが一般的です。

★治療の基本方針

脂質異常症の治療は、まず**「生活習慣の是正」が土台となり、これで改善が見込めない場合や、動脈硬化のリスクが高い場合に「薬による治療」**が加えられます。最終的な目標は、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患を未然に防ぐことです。

  1. 生活習慣の改善(すべての患者様の基本) 食事や運動の見直しは、治療の最も重要な柱です。 当院では、管理栄養士が在籍しており、定期的に栄養指導や生活指導を実施しています。患者様一人ひとりのライフスタイルに合わせて、無理なく続けられる食事療法、運動療法などの具体策をご提案します。
  2. 薬物療法 生活改善のみでは目標の脂質値に達しない、または糖尿病や心臓病など、動脈硬化性疾患のリスクが高いと判断された場合に開始されます。
    • 服薬に関する重要な注意点:
      • **自己判断での中断・変更は厳禁です。**検査値が良くなったとしても、それは薬が効いている結果です。医師の指示通りに服薬を続けることが、再発防止に不可欠です。
      • **生活習慣の継続も必須です。**薬を服用している間も、食事や運動の見直しは治療の基本として並行して行う必要があります。

★予防と生活習慣の見直し

脂質異常症を予防し、動脈硬化を引き起こす危険因子を減らすには、日々の生活習慣を見直すことが最も重要です。「食生活」「運動」「その他の習慣」の3つの柱で対策を講じましょう。

  1. 食生活の工夫(食事療法) 伝統的な和食を意識し、過度なカロリー摂取を避け、栄養バランスの良い食事を心がけます。
    • 控えめにすべき食品(LDLコレステロール・中性脂肪を上げる):
      • 飽和脂肪酸・動物性脂肪: 肉の脂身、バター、生クリーム、ラード、加工食品(インスタントラーメンなど)は、LDLコレステロールを上昇させます。
      • コレステロールを多く含む食品: 卵(卵黄)、魚卵(たらこ、いくら)、レバーなどの内臓系食品は、摂りすぎに注意が必要です。
      • 糖質・甘味: 清涼飲料水、菓子類、デザート、過剰な主食(白いご飯やパン)は、中性脂肪を増やす大きな原因になります。
    • 積極的に摂るべき食品(LDLコレステロール・中性脂肪を下げる):
      • 青魚: サバ、イワシ、サンマなどに豊富なDHAやEPAは、中性脂肪を減らし、動脈硬化を抑制します。
      • 食物繊維: 野菜、海藻、きのこ、根菜類、玄米などは、腸内でコレステロールや中性脂肪の吸収を妨げます。
      • 植物性タンパク質: 豆腐や納豆などの大豆製品は、脂質の値を改善する働きがあります。
      • 調理の工夫: 揚げ物や炒め物を減らし、蒸す、茹でる、網焼きなど、油の使用量を抑えられる調理法を取り入れましょう。
  2. 運動習慣(運動療法) 運動は、中性脂肪を減らし、善玉であるHDLコレステロールを増やす効果があります。
    • 有酸素運動を習慣化: ウォーキング、軽めのジョギング、水泳、サイクリングなどを取り入れます。
    • 目標と目安: 1日合計30分以上の運動を、週に3回以上(理想は毎日)行います。「ややきつい」と感じる中強度の運動が効果的です。
    • 筋力トレーニング: 週2回程度の筋トレは、基礎代謝を高め、中性脂肪の消費を促進します。
    • 継続のヒント: エレベーターの代わりに階段を使う、一駅分歩くなど、日常生活の中で意識的に身体活動量を増やす工夫が継続につながります。
  3. その他の生活習慣の是正
    • 禁煙: 喫煙は動脈硬化の最大のリスク因子であり、直ちに禁煙することが最も重要です。
    • 適正体重の維持: 過食を控え、標準体重を保つことで、脂質異常症のリスクを低減できます。
    • ストレス・睡眠の管理: ストレスはコレステロール値を上げる原因となることがあります。十分な睡眠時間を確保し、趣味などでリラックスするなど、適切なストレス対処を心がけましょう。
    • 定期的な健康チェック: 症状がないまま進行するのが脂質異常症の特徴です。定期的に当院の健康診断を受け、ご自身の脂質値を把握し、異常の早期発見に努めることが大切です。

健康な血液のために、今すぐ一歩を踏み出しましょう

まずは「できること」から始めましょう。

  • 食事は、揚げ物や甘いものを減らし、青魚や野菜を意識して摂る。
  • 運動は、毎日30分程度のウォーキングを日課にする。 このような生活習慣の改善こそが、病気を遠ざける最良の「予防薬」です。

ただし、努力だけでは数値が改善しない場合や、遺伝的な要因が背景にあるケースもあります。健康診断でLDLコレステロールや中性脂肪の異常を指摘された際は、決して自己判断で放置せず、必ず当院にご相談ください。

~~ 医療法人社団 俊爽会 理事長 小林俊一 日本内科学科 総合内科医 監修 ~~